『水辺の小さな自然再生 人と自然の環(わ)を取り戻す』
中川大介著、(一社)農山漁村文化協会、2000円+税
地域住民が発案・協働し、手づくりの技で、身近な生物の生息環境を回復する「小さな自然再生」が全国に広がっています。
本書は、浜中町の三郎川をはじめ北海道の川ですすむ「水辺の小さな自然再生=手づくり魚道」を取り上げながら、地域で暮らす人びとにとって身近な自然や風景はどんな存在なのか、また、それを自分たちの力で取り戻すことの意味は何なのか、と問いかけます。
戦後の高度成長期、川は河道改修や土地の造成によってその姿を大きく変え、人びとから遠くなってしまいました。この本は、東日本大震災後、激変した東北沿岸の風景の描写から始まります。防潮堤や高台移転…。海とともにあったこの地の暮らしも風景も大きく変わってしまいました。
「小さな自然再生」に加え、もうひとつのキーワードが、哲学者・桑子敏雄さんの言う「空間の履歴」です。外部から見た風景や歴史でなく、そこに具体的にかかわることから生まれるのが、その人にとっての、そして地域にとっての「空間の履歴」です。
「小さな自然再生」を経糸(たていと)に、そして「空間の履歴」を緯糸(よこいと)に、地域の自然と風景のもつ意味、それを地域の力で取り戻すことの豊かな可能性について描いていきます。
目次
序章 変貌した故郷の風景――失われた空間の履歴
巨大な防潮堤
失われた「空間の履歴」
礎石のメッセージ
自然とのかかわりを問い直す
第1章 小さな自然再生との出会い――三郎川手づくり魚道ものがたり
緑の回廊づくりから手づくり魚道へ
立ち上がった住民たち
人の環と自然の環
生活空間に新たな履歴を重ねる
第2章 広がる小さな自然再生
ふるさとの川を―北海道美幌町・駒生川
民がつなぐ環――釧路地方・釧路川支流
「小さな自然再生」研究会の取り組み
第3章 なぜいま小さな自然再生なのか
「見試し」を重ねて得られるものは――岩瀬晴夫さんに聞く
自然とかかわる技術のあるべき姿――中村太士さんに聞く
終章 小さな自然再生がひらく未来
桜の植樹に託す再生への願い
空間の改変と小さな自然再生
履歴を重ねる続けることの意味
生きる場の風景の取り戻しを求めて
終わりにかえて――海に生きる人に、凪を